夢が叶うということ

枕に頭をのせ、ぴこっと布団から顔だけ出している
23年前、子猫の頃のミーちゃんの姿に心奪われた
(ミーちゃんのお話はこちら『星の王子さま』)
それが今
ミーちゃんは私の布団の中で寝るようになった

猫といえば―
子供の頃はじめて買ってもらったぬいぐるみは白い猫だった
クリーネちゃん
その後コナンという私だけの愛猫を飼いはじめたとき
ドラえもんを手に入れたんだと思った
ドラえもんは四次元ポケットのゆえにありがたいのではなく
のび太のためだけにいつもそこにいてくれることがありがたいのだから

今年久しぶりに共演するピアノの吉田優子さんがかつて言った
「satokoさん何年か後にフジ子・ヘミングみたいになっていそう」

郊外の一軒家に猫と住み
食事はだいたいお味噌汁を立ち食い
夜中になるとピアノ部屋に入っていき
ひとりピアノを弾きだす

―大きくズレていない

時折、自分は相当念が強いのではと思うことがある
夢とも呼べないような小さな想念が、何年か後に現実となっているのに気付いたとき

小学校のバレーボールチームは弱小チームだった
地元の常勝チームは雲の上の存在で自分には関係のない世界に見えた
3年後、私は県代表のキャプテンとして彼女たちを率いていた

中学校にタッカー先生が来てはじめて本物の英語を聞いた感動
高校のときに母が買ってくれたドリッピーの冒険の勉強に飛躍的な成果を期待したこと
大学のクラスの帰国子女の友人たちの流ちょうな発音に憧れたこと
あの頃、英語が話せるということは、決して0%ではないけれどそれに近いことに思われた

大学の英文科を受験すると決めた私に、父はなぜ英文科なのかと聞いた
その場しのぎで「将来翻訳家になりたいから」と私は答えた
コロナウィルスの影響で最近翻訳の仕事を本気で探しはじめ
たくさん受けたトライアルから一件だけ合格し、そこから仕事をいただいている
エンタープライズソリューションとかサイバーキュリティテクノロジーといった
ごりごりのIT分野を訳す正真正銘のプロの翻訳家になった

曲を作ることも
詞を書くことも
CDを作ることも
それを全世界に流通させることも
かつては夢のまた夢
誰かの人生に起こっているのを見て
自分の人生にそれが起こるとか起こそうとかはあまり思わなかった

でも現実になった
運を確実に掴んだというよりは
折に触れ、性懲りもなくあきらめず
どこかで静かに夢見てきたように思う
その静かな夢の見かたは
子供のころお風呂で遊んだ人魚のお人形のおうちセットの懸賞に申し込んだり
いつか私だけに懐いてくれるペットが欲しいなと憧れたり
ドラえもんがうちにもいたらなと夢見るようなものだった

想い
ゆめ
奇跡

たとえば
自分で選んだコーヒーを自分で選んだカップでカプチーノにして飲むとか
お花屋さんで花束を買ってきてキッチンの陽のあたりのよいあたりに置くとか
髪を伸ばして古い時代の髪形をまねして結うとか
洋服ダンスの中には本当に自分が好きで買った靴下しかないとか
そういう小さな小さな日常のことでも
何年か前には上手に叶えることができなかった

この世界で何十年と毎日を過ごしていく中で
自分が一番心地よいと感じるもの
自分が本当に好きと言えるものを
自分のまわりに置いて
あるいはその方へ近づいて
ああ心地がよいな
ああ好きだなと
日々の瞬間瞬間に感じること
これを奇跡と呼ぶ人はいないけれど
夢とも呼べないような小さな想いが
現実となって私の人生に今存在していることは
奇跡的だなぁと思う


何かと名付けるのが得意になったのは、この時家族が褒めてくれたからだろうか