哀しい歌

この不可思議なウイルスは痛々しいくらいに
人それぞれに内観の機会を強いているんじゃないか
実は自分には何にも影響なかったしなって思うくらい
冷静にこの状況を見ていた
でも今どかんと遅ればせながら 来た
なぜ自分が音楽にこんなにも必死 “dying” なのか
内観せざるをえない状況になっている

配信動画がこんなにこんなにあふれかえって
みんなお腹いっぱいだよね
超不安になってわたしは皆さんがやっていることを見にいった

ああきっと自分でこの映像を録ってこんなに素敵に組み合わせたんだ 印象的
なんと!この曲に日本語の歌詞を考えたんだ 特別感
こんな編集 時間も手間も相当かかったんじゃ 芸術的
わあ単純にええ音ええ声上手いな~ ずっと聴いてられる

ほんとに感動的
そしてせつない
みんながこれを自分でやってること
いわゆる「自費出版」
でもこれは趣味じゃない
自費で作ってるからって趣味の範疇じゃない
この作品が話題になって取りざたされないのって何でなんだろう
どうしてこんなに埋もれなきゃいけないの?

誰も悪くないの
作った人も
聴いて観てくれる人も
聴いて観てくれない人も
業界も
経済も
SNSも
何も悪くないの

私はそれで自分の音楽が聴きたくなって
ずっと聴いてたら涙が出てしょうがない
よく出来ているのがわかるから

でもそれだけじゃダメなんだよ今の時代
いい作品を作っただけじゃ足りないんだ

賢治は『注文の多い料理店』にあんな素敵な序文を書いて
東京の出版社にもっていったけどぜんぜん売れなかった
きっと花巻の身近な人たちが買ってくれただけだったろう
きっと出来上がって嬉しくて どんな反応が返ってくるか想像して
でもぜんぜん世間の話題にならなくて
心が握りつぶされるようになっただろう
その哀しみで人って死に至るような自己暗示に陥ってしまうと思う
心臓が握りつぶされるように痛くなって病気にもなると思う
私も握りつぶされそうになっている
この哀しみ

Radka Toneff は自分の声に苦しんだって聞いたことがある
ほんとかどうかはわからないけどそ気持ちはわかる
いったい何なんだろうかこの声は―
自分で理解しがたくなることがある
そこでわたしが唯一 いつでもこだわっていることは
嘘を発したくないということだけなんだ
「あ、こういう大きさ弱さのこういう声色が今このアンサンブルにからんだらいいんじゃないかな」
そう思う声をその場その場で出そうとする繰り返し

だからホームランを打つこともあれば 相当格好悪く から振りすることもある
これはかなり勇気がいることじゃないだろうか
恐れを知らないタチなので 恐怖心なくこれをやっているけれど
この世界は甘くないから勇気だけじゃ褒めちゃあもらえない
勇気もあって ほぼ毎回ホームラン打てる人が本当に素晴らしいと言われるプレーヤーなんだ
ジャズ・ジャイアンツは本当すごいよ

不安になって応援してくれる人の反応にすがる

satokoさんの声好きなんですよ
さとちゃんの優しい歌がみんなに届くといいね
独特な魅力にあふれて不思議な気持ちになります

今日自分の歌を聞いたら
この声には その “哀しみ” が混じってるんじゃないかって思った

西 加奈子さんという作家さんが
「勝手に私の創作の神様みたいな存在がいて その人に書くつもりで書いています」
とおっしゃっていた
わたしは―
大切な存在だけをまねき入れる ”世界” があって
そこに流れている音楽を再生しようとしている
だから頭の中にその完成形があって
それは音というより風景なんだ
それをこの物質世界で
物質世界の音を用いて
別の魂と会話して形にしようとしている
そのもがき
自分の音楽を聴くと その世界が存在している!と嬉しくなって涙が出るのだ
この自己実現を人と分かち合う意味とは何なのか
自分がただただ吐き出し続ける表現を誰かに受け止めてもらわないと安心できない
この表現者という立場は何なのだ

これらの音は受けてとめてくれる誰かを求めているのか
わたしは創造の神様に聴いてもらいたくて歌っているのか

神様わたしの声は聞こえますか
神様わたしの声は耳障りではないですか
神様わたしの歌で喜んでもらえますか
神様わたしはこのまま歌っていてもいいいですか

わたしたちが発するたくさんの哀しい歌が
どうか神様の創った世界に存在することを許されますように